大学ではこんな話をよく聞きます。
博士課程まで進むと就職が厳しくなる
博士号は取ったけど、ポストが見つからないからポスドクかぁ…
アカデミアでは正式なポストを獲得する前に「ポスドク」という過程を経ることが大半です。
博士号取得後に非正規雇用の任期制の職に就いている研究者(またはそのポスト自体)のこと
さらにこのような不安定なポスドクから長らく抜け出せない研究者が多いことや待遇が良くないことを総じて、「ポスドク問題」と呼んでいます。
このポスドク問題は、アカデミアではたらく研究者の負担となっていて、科学者の魅力を下げている原因と言われています。
この記事ではポスドク問題が生じる3つの要因について説明していきます。
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ポスドクについての理解が不十分な人はまずはこちらの「ポスドクとは?」から>>>
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ポスドク問題とは?
不安定なポスドクから長らく抜け出せない研究者が多いことや待遇が良くないことを総じて、「ポスドク問題」と呼んでいます。
現在ではポスドクの数は1.5万人以上いるとされます。
博士卒で安定した職に就けない研究者がたくさんいるんだよな~
ポスドク問題の原因は以下のように考えられています。
- この半世紀前で博士の数がかなり増えた
- 博士の数に対して大学教員ポストが少ない
- 博士取得後に企業に就職する文化が浸透していない
現在ではこうしたポスドク問題によって「科学者の魅力が低下」し、能力の高い学生が科学者を目指さなくなっているといわれています。
博士の低い就職率
文部科学省が行った令和2年度の博士課程の卒業後の調査ではこのようになっています。
- 博士課程修了者15522名
- そのうち75.8%が就職
- 就職者のうち任期のない常用雇用は69.3%(全体の52.6%)
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それに対して修士卒では、任期のない常用雇用者は74.1%(出典:文部科学省)とあります。
博士が52.5%
修士が74.1%
数字だけみると博士って厳しいと思わされる
どうして博士の就職率が低いのか?
- 理由①:競争の激しい大学教員(アカデミア)ポスト
- 理由②:任期付きの大学教員が増加
- 理由③:企業への就職が浸透していない(アカデミア志望の人が多い)
理由①:競争の激しい大学教員ポスト
博士を取得して研究者を目指すならば、大学教員や研究所などのポストを探すことになります。
しかし、その大学教員のポストはとても競争率が高いのです。
その理由は、博士の数に対してポストの数が少ないから。
博士の数は半世紀で大幅に増加
博士取得者数は、1980年代と比較して2倍以上に増えています。
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博士がこのように増えた時代背景については以下の記事で詳しく説明しています。
博士の数に対して教員ポストの受け皿は増えていない
しかしながら、急増した博士取得者と比して、アカデミアにおいて若手の大学教員採用数は増えていません。
このように教員ポストが少ないことから、1名の募集に対して50名や100名もの応募があることも多いようです。
ものすごい倍率!
その結果、新卒者で大学教員になれる人はわずか
以下は文部科学省が大学教員に採用された方の採用前の状況を調査した結果です。
注目していただきたいのは、赤色。
大学教員採用前に「学部新規卒業者・大学院修了者」だった人は
・平成21年度で10.7%(1185名)
・平成30年度で8.7% (1003名)
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新卒で大学教員になっている人はほどんどいない…
「博士卒業後に任期のない常勤職についた割合は50%強」という上述の結果に繋がっています。
ポスドクになる人が増えてしまったわけだ…
理由②:任期付きの大学教員が増加
そんな競争率の高い大学教員ですら、現在では「任期付き」であることが増えています。
特に「任期付き」が増えている集団は
・30~40歳代
・助教、特任助教
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激戦を勝ち抜いて大学教員になっても、任期があればまた次のポストを探さなければいけません。
ポスドク→助教→ポスドクということだってありうる
雇い止めによって任期制の研究者は10年以上同一機関で働くことができない
任期付きで雇われている研究者(大学教員やポスドク等)は、これまでは再契約を繰り返すことで同一機関に長期に勤めることも可能でした。
しかし「無期転換ルール」という「雇用10年を超える場合は任期のない職への転換を申請できる」とした政策が2013年に施行され、無期転換を避けるために大学や機関側は雇用10年以上の雇用を避けるようになる可能性が高まりました。
つまり、任期を更新しながら長期的に同一機関で働くことが難しくなってしまったということです。
雇い止めの問題については以下の記事で詳しく解説しています。
任期制の職の問題点
このような不安定な雇用形態はじわじわと研究者の精神を蝕んでいきます。
任期付き助教が新テーマで2.5年で1st×5本出さないと延長不可で、このままだとポスドクで年収200万らしい。
— 芦花 (@AnuramanR) June 8, 2022
「死ぬ気で医学博士取った自分が、その辺の学部卒より給料低いとか自尊心が保てない。」って言ってた。地獄なんかな。
任期があったときは「いや割と平気ですよ」って感じで自分でもそれを疑っていなかったんだけど、いざ任期なしポジションに就いたら「あれ!?え?こんなに肩が軽いの?」みたいな心理的な開放感が大きかった。
— Akira Kanaoka (金岡 晃) (@akirakanaoka) April 28, 2022
さらに、任期があるという不安定な状況では、次の就活に必要な業績をかせぐために短期的な結果の出やすい研究が多くなるという問題点も指摘されています。
人類の大発見に繋がるような壮大な研究に着手し辛いということです。
このような現状を打破するために、政府も色々と政策を打ち出しており、その一例がテニュアトラック制の導入です。
理由③:企業への就職が浸透していない
日本では博士課程から企業への就職はまだまだ一般的ではなく、「博士は大学の教員になる」という考えが根強いです。
こちらは、修士と博士学生に対して、課程修了後の進路希望について調査した結果です。
このように博士はアカデミア志向が非常に強いことがわかります。
また、企業の研究者における博士の割合をみると、諸外国と比較して日本は非常に低いですね。
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しかしながら、経済的側面を考えると、企業研究者となるメリットはとても大きいといえます。
2012年博士課程修了者の1年半後の状況を調査した結果では…
- 博士卒後は6割がアカデミア、3割が非アカデミアに就職
- アカデミアでは6割が任期付きの職
- 非アカデミアでは 約9割が正社員・正職員での雇用
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最近では、企業の求人にも変化があり、大企業の研究職で博士の求人が増えているようです。
アカデミアだけでなく企業研究者への道も検討してみることで、人生の選択肢を広げることになります。
メリット以外にもちろんデメリットもありますし、向き不向きもあります。
こちらの記事でそれらについて解説しています>>>
博士が企業就職をうまく進めるための方法をこちらの記事で紹介しています>>>
ポスドク問題をどう考えるか?
ポスドクは研究者の研修期間
ポスドクは研究者の研修期間として、誰もが通る道と位置づけられつつあります。
博士号取得者が急増した今では、博士の能力も「ピンキリ」といえます。
(博士号の授与基準が大学によってもバラバラで、博士号が取りやすい大学・学部などが存在します)
ポスドクとして複数の研究室で経験を積み、実力を十分に備えたた研究者が任期のない大学教員ポストを手にできる、という流れは自然ともいえます。
ポスドクがいないと研究室が回らないという側面
「研究室はポスドクがいないと回らない」というくらい、研究室運営においてポスドクの存在は有難いものです。
最近の大学教員は教育や大学雑務にかかる時間が多すぎて、研究活動に注力できない状況におかれていることもあります。
こういった状況下では、研究の遂行や大学院生の研究指導などにおいてポスドクが大きな役割を担うケースも珍しくありません。
科学の発展にポスドクの下支えがあることを忘れてはいけませんね。
アメリカではポスドクの働きに感謝する「ポスドクデー」があるそうですね。
研究者はアカデミアに残るか企業研究者になるかの決断をする必要がある
ポスドク問題のことを考えると、博士とってアカデミアに残るのって難しそう。
もしこのような悩みを持っている方がいたら以下を読み進めてください。
研究者として生きていく上で、アカデミアを目指すか企業研究者になるかの決断をする必要があります。
ご存じの通り、研究者の働く環境は3つに大別されます。
国内の研究者の数※ | 特徴 | |
---|---|---|
大学(アカデミア) | 33万6800人 | 研究と教育の両輪 |
公的研究機関 | 3万8200人 | 研究に専念 |
企業 | 51万5500人 | 研究に専念 (研究開発による収益化を念頭においた活動がメイン) |
もしかしたら、「アカデミアに残れない人が企業研究者になる」という偏見を持っていませんか?
それは間違っていて、あなたの適性やライフプランによって決断すべきです
アカデミアと企業研究者では、多くの点で研究環境が異なります。
最も大きな違いは「研究の方向性」の違いです。
企業ではより早く商品化・サービス化することで自社の利益を生む必要があります。
そのため、基礎研究<応用研究・開発研究が重視されます。
その分、短期的なゴール設定が多くなり、達成感などが得られやすいメリットがあります。
短期的なゴールに達成感を得られやすい人は企業向きです
他にも違いが沢山ありますが、詳しくはこちらの記事でまとめています>>>
研究者の魅力を取り戻す科学政策
現在、このように科学者の魅力が低下としたと言われる現状を打破するために、研究者を支援するための政策を様々に出されています。
もう少しポスドクのことについて知りたい方はこちらから
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