多くの博士卒が任期のない職(パーマネント職 or テニュア職)につけず、長らく雇用形態や給与の不安定なポスドクとなっている現状のこと
大学ではこんな話をよく聞きます。

博士まで進むと就職が厳しくなる



研究者としての就職先がないから、とりあえずポスドクになるしかない…
この記事では博士卒の就職状況、給与について掘り下げていきます。
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ポスドクとは?
ポスドクの説明が不要な方は次章へ→ポスドク問題とは?


ポスドクとは、「博士号取得後に任期制の職に就いている研究者(またはそのポスト自体)」を指します。
現在のアカデミアの世界では大学教員ポストが不足しているため、ポスドクは研究者の研修期間として、誰もが通る道と位置づけられつつあります。
ポスドクとして研究業績を積みながら、任期のない(パーマネント)職を探します。
ポスドクの特徴
- 任期のある職
- 研究主宰者(PI)の下で働きながら自己研鑽
- 他の同年代と比べて薄給
ポスドクの特徴①:任期のある職
ポスドクは主に1~5年程度の任期をつけて雇われることが多いです。
それは、ポスドクの雇用源となる資金が、期間のある競争的研究基金などの研究費から捻出されることが多いからです。



「大きな研究費が採択されたからポスドクを雇ってさらに研究を進めよう」という流れが多いのです
プロジェクトが終了して研究費がなくなれば、ポスドクの雇用も打ち切られます。
成果やプロジェクトの進行状況によっては、契約を更新することで、雇用当時の契約年数以上に働く場合もあります。
このようにポスドクの契約更新を繰り返しながら、長らく同一機関で働いている研究者もいます。
ポスドクの特徴②:研究主宰者(PI)の下で働きながら自己研鑽
ポスドクは自身で研究室を持つことはなく、雇用主である研究主宰者(PI)の下で働きます。
ポスドクの働き方にはさまざまな状況があります。
- 取り組む研究が決められている場合
- 決められた分野の範囲内であれば、比較的自由にポスドク自身の研究ができる場合
- 大学教育面での補助の仕事が多くなる場合
例外的に学振の特別研究員PDは受入研究者の下でかなり自由に研究が行えます。
ポスドクの特徴③:他の同年代と比べると薄給である
詳しくは後述しています。→ポスドクの給料
採用条件によってばらばらですが、年収300万~600万だと言われています。
筆者がJrec-Inで検索したところ、ざっとこのような条件が見つかりました。
年俸制で25~50万円/月
時給制で1500~2500円/時間
フルタイムで働く場合もあれば、週2~3日などのパートタイムで働く場合もありますので、年収としてはものすごくばらつきがあります。
ポスドクの給料だけでは生活が苦しいため、非常勤の大学講師などを掛け持ちすることも多いです。
大学大学院からストレートに博士号取得したとしても28歳前後です。
社会人として就業している同年代と比べると薄給であることは否定できません。
ポスドク問題とは?


不安定なポスドクから長らく抜け出せない研究者が多いことや待遇が良くないことを総じて、「ポスドク問題」と呼んでいます。
現在ではポスドクの数は1.5万人以上いるとされます。



博士卒で安定した職に就けない研究者がたくさんいるんですね
ポスドク問題の原因は以下のように考えられています。
- この半世紀前で博士の数がかなり増えた
- 博士の数に対して大学教員ポストが少ない
- 博士取得後に企業に就職する文化が浸透していない
現在ではこうしたポスドク問題によって「科学者の魅力が低下」し、能力の高い学生が科学者を目指さなくなっているといわれています。
博士の厳しい就職状況


文部科学省が行った令和2年度の博士課程の卒業後の調査ではこのようになっています。
- 博士課程修了者15522名
- そのうち75.8%が就職
- 就職者のうち任期のない常用雇用は69.3%(全体の52.6%)
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それに対して修士卒では、任期のない常用雇用者は74.1%(出典:文部科学省)とあります。



博士が52.5%
修士が74.1%
数字だけみると博士って厳しいと思わされる
どうして安定した就職が難しいか?
- 理由①:競争の激しい大学教員ポスト
- 理由②:任期付きの大学教員が増加
- 理由③:企業への就職が浸透していない
理由①:競争の激しい大学教員ポスト


博士を取得して研究者を目指すならば、大学教員や研究所などのポストを探すことになります。
しかし、その大学教員のポストはとても競争率が高いのです。
その理由は、博士の数に対してポストの数が少ないから。
博士の数は半世紀で大幅に増加
博士取得者数は、1980年代と比較して2倍以上に増えています。
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博士がこのように増えた時代背景については以下の記事で詳しく説明しています。


博士の数に対して教員ポストの受け皿は増えていない
しかしながら、急増した博士取得者と比して、若手の大学教員採用数は増えていません。


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このように教員ポストが少ないことから、1名の募集に対して50名や100名もの応募があることも多いようです。



ものすごい倍率!
こうして、大学教員ポストを手にするまでの研究者の一時的な受け皿としてポスドクの数は増えていったわけです。
その結果、新卒者で大学教員になれる人はわずか
以下は文部科学省が大学教員に採用された方の採用前の状況を調査した結果です。
注目していただきたいのは、赤色。
大学教員採用前に「学部新規卒業者・大学院修了者」だった人は
・平成21年度で10.7%(1185名)
・平成30年度で8.7% (1003名)
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新卒で大学教員になっている人はほどんどいない…
「博士卒業後に任期のない常勤職についた割合は50%強」という上述の結果に繋がっています。
理由②:任期付きの大学教員が増加


そんな競争率の高い大学教員ですが、現在では「任期付き」であることが増えています。
特に「任期付き」が増えている集団は
・30~40歳代
・助教、特任助教
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激戦を勝ち抜いて大学教員になっても、任期があればまた次のポストを探さなければいけません。



ポスドク→助教→ポスドクということだってありうる
雇い止めによって、任期制の研究者は10年以上同一機関で働くことができない
任期付きで雇われている研究者(大学教員やポスドク等)ですが、これまでは再契約を繰り返すことで同一機関に長期に勤めることも可能でした。
しかしながら、2023年以降は雇用10年目を迎える研究者の多くが雇い止めされる懸念が浮上しています。
その発端は2013年に成立した「無期転換ルール」という「雇用10年を超える場合は任期のない職への転換を申請できる」とした政策です。
その無期転換を避けるために、大学や機関側は雇用10年目を前に雇い止めをするのではと予測されています。
つまり、任期を更新しながら長期的に同一機関で働くことが難しくなってしまったということです。
雇い止めの問題については以下の記事で詳しく解説しています。


任期制の職の問題点
このような不安定な雇用形態はじわじわと研究者の精神を蝕んでいきます。
任期付き助教が新テーマで2.5年で1st×5本出さないと延長不可で、このままだとポスドクで年収200万らしい。
— 芦花 (@AnuramanR) June 8, 2022
「死ぬ気で医学博士取った自分が、その辺の学部卒より給料低いとか自尊心が保てない。」って言ってた。地獄なんかな。
任期があったときは「いや割と平気ですよ」って感じで自分でもそれを疑っていなかったんだけど、いざ任期なしポジションに就いたら「あれ!?え?こんなに肩が軽いの?」みたいな心理的な開放感が大きかった。
— Akira Kanaoka (金岡 晃) (@akirakanaoka) April 28, 2022
さらに、任期があるという不安定な状況では、次の就活に必要な業績をかせぐために短期的な結果の出やすい研究が多くなるという問題点も指摘されています。
人類の大発見に繋がるような壮大な研究に着手し辛いということです。
このような現状を打破するために、政府も色々と政策を打ち出しており、その一例がテニュアトラック制の導入です。


理由③:企業への就職が浸透していない


日本では博士課程から企業への就職はまだまだ一般的ではなく、「博士は大学の教員になる」という考えが根強いです。
さらに、これまでは企業側も積極的に博士を採用しようとはしてこなかったようです。
諸外国と比べてみても、企業の研究者における博士の割合は日本は非常に低いですね。
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2012年博士課程修了者の1年半後の状況を調査した結果では…
- 博士卒後は6割がアカデミア、3割が非アカデミアに就職
- アカデミアでは6割が任期付きの職
- 非アカデミアでは 約9割が正社員・正職員での雇用
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10年前のデータなので、今はもっと非アカデミアへ進む博士が増えている…かも?情報アップデート出来次第更新しますm(_ _)m
企業へ就職するときの主要なメリットは正規職員であることの経済的安定と精神的安定といえます。
最近では、企業の求人にも変化があり、大企業の研究職で博士の求人が増えているようです。
アカデミアだけでなく企業研究者への道も検討してみることで、人生の選択肢を広げることになります。
メリット以外にもちろんデメリットもあるので以下を参考にしてみてください。


ポスドクの年収


任期付きの研究者の年収について、以下の代表的な3つから見ていきます。
年収等の表記についての注意
タイトルでは一般的にイメージしやすいよう「年収」で表していますが、文章中では引用元を尊重して「月給」と「年収」表記が混在しています。ご了承下さい。
いわゆるポスドク:博士研究員
(年収300~600万)
いわゆるポスドクである。
研究室の個別の研究費(科研費など)やあるプロジェクトの一員として任期を設けた上で雇用される。
博士研究員には様々な形態があります。
ざっと現時点での公募を調べてみると、任期は1~10年までばらばらで、給与は年俸制の場合も時給の場合もあります。
年俸制で25~50万円/月
時給制で1500~2500円/時間
JREC-INで「職種:研究員・ポスドク相当」にチェックを入れ、研究分野などのキーワードで検索するとそれぞれの分野におけるポスドク給与の相場がわかります。
公募されるポスドクとして有名なものを一例として挙げます。
理化学研究所 基礎科学特別研究員の例
待遇 | 年俸制で487000/月(社会保険料込み) 通勤手当(上限55000円/月) 住宅手当(家賃の一部) 赴任旅費(当研究所規定に基づく) |
任期 | 3年 |



こちらはポスドクの中では高給だと言われています。
一般的ではないのでご注意。
日本学術振興会 特別研究員PD
(年収約450万)
優れた若手研究者に対して生活費と研究を支給する制度(支援機関:日本学術振興会)
博士課程修了後に受給可能な特別研究員にはPD、RPD(出産育児などで研究を中断していた研究者が対象)、PDに採用されている研究者が申請可能なCPD(国際競争力強化研究員)があります。
特別研究員PDの応募条件は博士課程修了後5年間以内です。
採用人数は文系理系あわせておよそ350名と非常に少なく、革新的な研究内容かつ十分な業績のある研究者しか通りません。
採択された場合には3年にわたり以下の支援を受けることができます。
<特別研究員PDの場合>
- 生活費:36.2万円/月を研究者に支給
- 研究費:150万円以内/年を所属する大学を介して研究者に支給
(※雇用ではないので、国民年金や国民保険には自分で入る必要があります。)
これまで雇用関係を有していなかった特別研究員ですが、令和5年度より特別研究員PD・RPD・CPDを受入研究機関で雇用することが可能になりました。
従来のPD等 | 受入研究機関に 雇用されるPD等 | |
---|---|---|
身分 | 日本学術振興会特別研究員 (雇用関係なし) | 受入研究機関の職員 |
給与等 | 「研究奨励金」として日本学術振興会から支給 | 「給与」として受入研究機関から支給 (受入研究機関には日本学術振興会から「若手研究者雇用支援金」を交付) |
各種手当等 | なし | 機関・個人の状況により、通勤手当、超過勤務手当等が支給 |
公的年金 | 国民年金 (第1号被保険者) | 厚生年金 (第2号被保険者) |
健康保険 | 国民健康保険 | 健康保険組合・共済組合等による健康保険 |
雇用保険 | なし | 適用あり |
労災保険等 | 傷害保険に加入 (保険料は日本学術振興会がが全額負担) | 適用あり (労災保険料は受入研究機関が全額負担) |
所得税 | 日本学術振興会が源泉徴収 | 受入研究機関が源泉徴収 |
住民税 | 各自で納付 | 給与から天引き |



かなり待遇が改善されています!!!
任期付きの大学教員(ここでは助教)
(年収約600~700万)
大学教員の中で最も若手であるポジションは「助教」ですが、助教は任期付きであることが大半です。
「任期付き助教」は主に以下の2つに分けられます(テニュアトラック助教を除く)
- 助教(大学基盤運営費での雇用)
- 特任助教(外部研究費での雇用)
(助教にも色々と種類があり雇用形態や働き方が異なります。詳しく知りたい方は【かんたん解説】テニュアトラック、特任、特命助教の違いを比較解説!をご参照ください。)
助教の平均年収は600~700万
文部科学省の調査では「所属する機関からの」平均月額給料は35.1万円とあります。
その数字に以下の項目などを加えて概算した推定値です。
- 住宅補助などの諸手当2万/月
- 賞与3か月分/年
- 副収入100万/年
大学区分による違いは以下の図を参考にしてみてください。


助教の給与水準は決して低くはありません。
任期付きである場合には、次の就職先を見つける必要のある不安定な状況には変わりありません。
ポスドク問題をどう考えるか?


ポスドクは研究者の研修期間
ポスドクは研究者の研修期間として、誰もが通る道と位置づけられつつあります。
博士号取得者が急増した今では、博士の能力も「ピンキリ」といえます。
(博士号の授与基準が大学によってもバラバラで、博士号が取りやすい大学・学部などが存在します)
ポスドクとして複数の研究室で経験を積み、実力を十分に備えたた研究者が任期のない大学教員ポストを手にできる、という流れは自然ともいえます。
ポスドクがいないと研究室が回らないという側面
「研究室はポスドクがいないと回らない」というくらい、研究室運営においてポスドクの存在は有難いものです。
最近の大学教員は教育や大学雑務にかかる時間が多すぎて、研究活動に注力できない状況におかれていることもあります。
こういった状況下では、研究の遂行や大学院生の研究指導などにおいてポスドクが大きな役割を担うケースも珍しくありません。
科学の発展にポスドクの下支えがあることを忘れてはいけませんね。



アメリカではポスドクの働きに感謝する「ポスドクデー」があるそうですね。
研究者に向いてないと感じている人へ
博士号まで取ったものの、研究者に向いていないと感じている方はきっと多いはずです。
大学院に進学できる学力があれば研究者になれます。
しかし、研究者を続けることの方が実は難しく、いくら優秀であっても研究者を辞めていく人が大勢います。
これには、性格的な向き不向きも大きく影響しています。
一度以下の記事を参考に、研究者の適性をチェックしてみください。


もし、研究者に向いていない場合は、別の領域であなたの能力を発揮した方がよほど効率的です。
新たな道を選んだ場合でも、研究室で鍛えた能力はきっと次の職でも生かせるはずです。
参考になる書籍をご紹介しますので、気になればぜひご一読ください。
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